作品詳細

突撃密着潜入レポート

突撃密着潜入レポート
作品コードBK00000000000000004601
作品の説明 休日ののどかな昼下がり、テレビにいじめを苦にして自殺した小6女児のニュースが流れていた。
「かわいそうに」
 戸打夏実がつぶやき、隣で一緒に見ていた夫が、
「かわいそうなのはオマエだ。職場でいじめられたんだ」と言ったことで、モノガタリがはじまった。
 夏実は夫の言葉が解せなかった。何を言っているの、誰のことを言っているの?夫は小学校の同級生である。
 だが、夫の指摘の真意を察知するや妻は動揺し羞恥心でほてった。
 隠したつもりはない。妻が仕事に出かける時間帯に夫は家にいない。余計な心配をかけたくないから妻が仕事に行かないことを黙っていた、それだけのことのはずだ。
 動揺してもプライドは健在で、誤解だよと一蹴したかった。私がいじめられるはずないじゃないの、笑いながら言い返したい。なのに、いじめられた事実を隠したがる瀕死の気分の夏実が頑なに邪魔した。
 妻は虚勢を張り、
「だって、(テレビの自殺した)この子は子どもだよ」
 と、大人としての面目をかろうじて保って応えたつもりだった。
 夫が追及しなくて助かった。心が崩れ落ちそうな妻には言い張れる余力はなく、沈黙の中に存在するのが精一杯だった。還暦を迎えた大人でさえ、自分がいじめにあったことをこれほどまでに拒みたいものなのか。畏れと葛藤が膨らんでいった。
 大人はいじめから逃げることができる。スルーを選んで屈辱的ないじめの記憶を抹消しようとすることもできる。でも、あの子たちは社会的に学校に縛られていて、逃げられない。スルーできない立場なのだ。大人はいじめなどこの世に存在してはいけないという建前を維持してきたけれど、いじめは確実に存在するものであり、いじめられることは交通事故のように誰にも遭遇しうることで、人格を否定されるような恥ずかしいことでは絶対にないと声高に表明すべきなのではないだろうか。さりげなく「いじめは止せ」と言うのは人間としての日常の自然な行為であるべきで、むしろ、「いじめは止めろ」と言わないのは、いじめを容認し増長させる。罪作りだ。
 そう考えるならば、オマエは「かわいそうに」などとのんきにテレビに向かってつぶやいてないで、オレはいじめられてすっごく悔しかった、嫌だったってまず自分自身のために言ってみろよ行動しろよと、もう一人の夏実が煽ったのだ。
 そしてまた、後日、本を書くようにと夏実を励まし続けたのは、いじめた側にいたはずの東風美咲だった。『還暦記念魂振旅行 ディズマランドへようこそ』はもう少し時間をかけて書き、美咲に捧げたい。
著者名嫌打戸 遊
カテゴリ 小説
ページ 205ページ
  • 電子書籍価格 108(税込¥117)
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